2010年10月07日

「最近の中国情勢」A労働争議と人民元問題

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どうなる?人民元の切り上げ。個人消費の拡大で内需拡大を図る(写真右)

伊藤忠中国総合研究所の古屋代表の「最近の中国情勢」講演、第二弾は労働争議と人民元問題です。
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今年5月中旬から中国全土で賃上げ騒動が顕在化した。推測だが1200社ほどの外資系企業で争議が起きたが、うち70%強の850社が日系企業だった。後は韓国、台湾、米国などの企業である。これによる賃上げの妥結額は平均25%を超しており、今後も毎年賃上げが常態化する恐れがあり、繊維や軽工業などの労働集約産業は「脱中国」が加速する可能性も指摘されている。争議が一斉に起こった5月中旬といえば、上海万博が始まったばかりで世界の耳目が中国に集まっていた。このタイミングで何ゆえ争議が起こったのか、そして誰が扇動したのか?

中国政府は08年秋のリーマン・ショックに端を発した世界経済危機を皮切りに、政策を大転換した。経済成長を牽引した輸出依存は今後通用しない、EU、米国、日本の3大輸出市場のすべてが厳しいということに気づき、発展パターンを内需依存に大きく転換した。並行して労働集約型から技術集約へと産業構造を高度化させ、また沿岸部偏重から内陸部へと発展戦略を拡大、さらに内需拡大のネックである所得格差の是正や社会保障制度の整備に乗り出した。

つまり賃上げ要求を軸としたこのタイミングでの労働争議は、「内需拡大」を狙う政府によって引き起こされたもので、その主対象として日本企業が選ばれたといえる。長年にわたって外国資本を優遇し過ぎたツケがリーマン・ショックで一気に表面化、政府としては急きょ自国の労働者や農民の生活水準を引き上げて個人消費の拡大=内需拡大に政策転換することとなった。一連の争議は、その先取りとなったわけだ。もっとも、08年には新「労働契約法」で労働者の地位や権利を守る法令が施行され、今年初から最低賃金制度の見直しが加速するなどその兆しは随所に出ていたが、リーマン・ショックで一気に加速したといえる。

そして来年2011年から15年までの第12時5カ年計画では、かつての日本を想起させる「所得倍増計画」が具体化される。ただ労使関係は今後「協調型」から「対決型」に変わる可能性があり、従来の「世界の工場」を支えてきた安くて豊富な労働力という中国の強みに陰りが出てくるのは必至といえよう。しかし中国は、「世界の市場」に向けて始動しだしたわけで、ある面では購買力の拡大など日本にも新たなビジネスチャンスが到来するともいえる。
2

 次に米中の火ダネとなりつつあるのが、人民元問題だ。この問題は実に厄介で、中国が輸出企業保護を目的に市場介入していることに対し、米国は輸出メーカーへの「輸出補助金」そのものだと反発している。

 元は2005年7月に1ドル=8.27元から8.11元へ2.0%切り上げられ、さらに08年7月までの3年間に同8.11元から6.82元へと約20%上昇した。しかし10年6月18日までの2年間はこの水準で凍結され、6月19日にようやく「人民元の弾力化方針」が発表された。とはいえ、それから今日まで、9月央に一時1ドル=6.70元の最高値をつけたものの、3カ月間でわずか1.7%の上昇にとどまっている。

中国政府としては、1985年のプラザ合意を機に急速な円高となった日本円と同じ轍を踏まないよう、「主体的・制御可能性・漸進性」を為替決定原則として、変動より「管理」に主眼を置いている。しかし米国では「人民元の上昇は遅すぎ、幅も限定的」「対ドルで25〜40%の著しい過小評価」「安い人民元は輸出企業への補助金」などの声が議会や政府関係者から上がるなど、反発を強めている。

しかも米国では11月に中間選挙があり、全米鉄鋼労組などが対中制裁法案の早期可決を要望している。しかし一方で、中国に進出している企業で構成する米中ビジネス評議会などは法案可決に反対し、なによりも米国債の最大保有国である中国には配慮が必要と財務長官は米中戦略経済対話、G20、IMFなどを通じての対話路線を強調している。目先カギを握るのは、近く発表される為替操作報告書に、中国政府が為替を操作していると記入されるかどうかだと注目されている。

ただ中国もいつまでも突っぱねるわけにはいかず、世界の企業・技術・資源獲得を目的に、「戦略的切り上げ」を行う可能性が強まりつつある。しかも7800万人の労働者を抱える輸出企業にとっては元の切り上げは深刻かもしれないが、そのほとんどが労働集約産業であり、先に説明したように政府は大きく輸出から内需へ舵をきっている。「籠(=市場)の中の鳥(=企業)を、古いものから新しいものに取り替える」実験がすでに始まっている。
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2回で終わろうとしましたが、もう1回。最後は「尖閣諸島問題、こぼれ話」編です。
posted by ウツボおやじ at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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