2010年09月13日

中国ビジネスでの詐取容疑事件、お先棒をかついだメディアも問題

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メディアは中国報道に関しても手抜きをしない正確な取材が基本にすべきだ

 ついに刑事事件に発展し、大阪地検特捜部が詐取容疑で家宅捜索や任意の事情聴取に乗り出しました。中国に生産拠点を持つある婦人服アパレル会社と、そこの女性社長のことです。

 彼女はここ20余年間、中国ビジネスで成功した「美人カリスマ女性社長」として新聞、雑誌、ビジネス書、テレビなどにたびたび登場し、民間はもとより官公庁が主催する講演会やセミナーでも引っ張りだこでした。その論調は一貫しており、「中国ビジネスを語れるのは私以外にいない。私に相談すれば必ず成功する。私以外の人はうそばかり」でした。

たとえばある講演会に、彼女ともう一人の講師が呼ばれたとします。一人の講師の後で登壇した彼女は開口一番、「今の講師の話はうそです」とやってしまうのです。その講師が目の前にいても平気です。とにかく人をこき下ろして、その対角線上に自分が存在する手法です。

 香港で輸出業務の貿易会社を設立した後、25年ほど前に大阪・中央区に現企業を設立して、上海や北京に婦人アパレルの生産拠点を持って事業展開していました。中国の工場は「OEM」といって相手先ブランドの生産、わかりやすく言えば賃縫製に近い仕事ですから、相当な数量を生産しても売り上げや利益はタカが知れています。それでも他社の中国事業サポートなどを含め、最高時には公称で年商900億円といわれていました。

 大阪と東京に夜景が見渡せるタワー・オクション、中国で泊まるのは釣魚台国賓館。北京と上海の空港には専用の特別室があり、大阪のシティホテルではお歴々を集めて彼女の誕生パーティを開くなどの風聞が飛び交い、この世の春でした。3年前には、大手出版社から彼女の中国ビジネスにかかわる本が出版され、紀伊国屋など書店の大きな外壁には彼女の等身大以上のポスターが長期間飾られていました。

彼女と会社の実態が初めて暴露されたのは、昨年12月のある週刊誌です。「みずほ、三井住友など大手銀行を手玉に取った中国ビジネスのカリスマ美人社長。第二の尾上縫事件」云々でした。尾上縫事件とは、大阪の高級料亭「恵川」の尾上女将が、1990年代初に東洋信金(倒産)や日本興業銀行(みずほ)などの金融機関を巻き込んで4300億円を焦げ付かせた巨額の金融詐取事件です。実は4300万円まではいかないまでも、同社とその関係会社は、都銀大手や地銀数行に対し総額300億円を超える融資を受けており、その大半の返済が滞っているとされていました。

 ところがこの週刊誌でも暴露されていましたが、金融機関から矢の催促があったそのころにも彼女は、「賢者の選択」というテレビ番組に堂々と中国ビジネスの賢者として出演していました。さすがにこのときは、出るほうも出るほうだが出すメディアも異常だと「賢者の選択は」はひんしゅくを買いました。

 しかし今年4月、大阪地裁で民事再生手続きの決定を受け事実上倒産しました。負債総額は360億円です。ただ現在も中国の工場は稼働しており、日本や中国の空港で、彼女の姿をよく見かけるとの声を聞いていました。そんな中、先週大手一般紙の社会面トップで、「中国事業で数億円詐取か」として冒頭紹介した記事が載ったのです。その内容は、女性社長らが経営悪化の事実を隠して同社が順調であるかのように装い、中国で展開する事業への資金協力を大阪市の衣料卸会社に依頼し、現金数億円を詐取した疑いがもたれています。今年4月に、その卸会社が彼女を詐取容疑で特捜部に告訴していたのです。

何故ここまで彼女が天上を謳歌することができたかですが、まずは彼女が人を信用させる、それも「爺さんをイチコロにする」という天性の能力でしょう。都銀や地銀大手の融資は大半が頭取などによる特別決済とのうわさも、その辺を根拠にします。金融機関に限らず、表面化しない色んなビジネスにかかわる問題も概ね彼女の営業トークが土台になっているはずです。

しかし一方で、彼女を「中国ビジネスのカリスマ」と祭り上げた周囲の、それもメディアの姿勢を無視することはできません。とりわけある繊維専門紙などは異常でした。ことあるごとに紙面に登場し、自薦他薦で日本各地のセミナーや講演会でしゃべらせます。当然、紙面には同社の広告や出版された書籍の広告が載ります。同社だけではありません、先週社会面トップで報道していた新聞でも、書評欄ほかでたびたび彼女は紹介されたり広告も掲載されていました。

ちょっと考えれば、そのビジネス手法は理にかなっておらず、異常だと気づくはずです。現実に多くの繊維人が、彼女のビジネスに警鐘を投げかけていました。情報源の危うさや取材を手抜きするどころか、逆に大風呂敷の先導役を務めたメディアの立場にこそ、一番の問題があるといっても過言ではありません。当方が関係するメディアや団体は、彼女にとっては「素人でしかもウソつき」の部類だったために、幸か不幸か周囲に一切の迷惑をかけなかったと自負しています。今回の騒動を「もって他山の石にすべし」と肝に銘じています。
posted by ウツボおやじ at 00:00| Comment(0) | TrackBack(1) | 日記
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